「おまじないベーカリー」第6章:心に灯るもの

「おまじないベーカリー」第6章:心に灯るもの

その日の夜。

ミアはパン屋の灯りを落とし、静かに厨房の片付けをしていた。
けれど、今日は少しだけ胸がざわついている。

(私の願い……)

「おまじないベーカリー」を開いた理由は、小さいころからパン作りが好きだったから。
誰かの幸せを願いながらパンを焼くことが、ただ楽しくて、それだけで十分だと思っていた。

でも。

「自分のことも、ちゃんと願えよ」

ルイの言葉が、何度も頭の中で反響する。

(私が本当に願っていることって……)

その時、不意に店のドアが叩かれた。

「……?」

こんな夜遅くに誰だろう?

不思議に思いながらドアを開けると、そこに立っていたのは――ルイだった。

「ルイさん?」

「……ちょっと、寄り道してきた」

そう言いながら、ルイはミアに小さな袋を差し出した。

「え?」

「これ、おまじないの代わり」

ミアが袋を開けると、中には――ふわふわのドーナツ。

「……?」

「おまじないのパンばっかり焼いてるけど、たまには誰かに作ってもらったもの食べてもいいだろ」

ミアは言葉を失った。

ルイは少し気恥ずかしそうにしながら、ぽつりと言う。

「俺が焼いたわけじゃないけどな。昔から通ってるパン屋のやつだ」

ミアはじんわりと胸が熱くなるのを感じた。

(こんなの、ずるい)

「……ありがとう」

ミアが小さくそう言うと、ルイは満足げに頷いた。

「ちゃんと食えよ」

そして、ルイはそっと手を振って帰っていった。

ミアはその背中を見送りながら、小さく笑った。

(私の願い……)

それが、少しずつ見えてきた気がした。

「ずっと、こんなふうに、おまじないを届けられますように」

それだけじゃない。

(ルイさんが、これからもこのパン屋に来てくれますように)

心の中で、そっと願いを込めた。

少しずつ、ミア自身の気持ちにも変化が生まれてきたね!
次は、ルイがミアにとってどんな存在になっていくのか、物語をさらに進めていこうと思うよ!

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