《星空カフェ🔮》第1章:星降るカフェの扉

《星空カフェ🔮》第1章:星降るカフェの扉

冷たい風が街の隅々まで吹き抜ける、冬の夜。
都会の喧騒に疲れた瀬川陽翔は、無意識のうちに電車を乗り継ぎ、知らない町へと足を運んでいた。
駅前の明かりは少なく、人気のない道が続く。ポケットに手を突っ込んで歩くと、ふと目に留まったのは、ぽつんと光る小さな看板だった。

「ほしぞらカフェ」
— 星が降るようなカフェなんて、少しロマンチックすぎる名前だ。

けれど、その温かな灯りに引き寄せられるように、陽翔は重い扉を押した。
カラン…カラン…。
鈴の音が、静かな店内に響く。

「いらっしゃいませ。」

カウンターの奥から聞こえてきたのは、柔らかくも落ち着いた声。声の主は、淡いベージュのエプロンを身に着けた女性だった。
ふわりと肩にかかる栗色の髪と、夜空のように澄んだ瞳が印象的だ。

「寒かったでしょう。こちら、温かいミルクティーをどうぞ。」

カウンターにそっと置かれたカップから、優しい香りがふわりと立ち上る。

「頼んでませんけど?」

「初めてのお客さまにはサービスなんです。うちの定番なので、ぜひ。」

その笑顔はどこか懐かしく、陽翔は断る理由もなくカップを手に取った。
口に含むと、ほんのり甘くて、体の芯まで温まるような味がした。

「……美味しいですね。」

「それはよかった。」

その笑顔の奥に、どこか影があるような気がして、陽翔は思わず尋ねた。

「このカフェ、星が降るって書いてありますけど…」

「ああ、その名前のことですか?」
女性はふっと目線を上げ、ガラス窓の外を見つめた。

「ここは、夜になると星がとても綺麗に見えるんです。だから、**『星が降るほどの空』**って意味を込めて、つけたんですよ。」

窓の外に目を向けると、薄く雲がかかっていたものの、遠くに小さな星が瞬いていた。
都会では見ることのなかった光景に、陽翔は少しだけ心が落ち着くのを感じた。

「星なんて、もう何年も見てなかったな…。」

ぽつりとこぼした言葉に、女性はゆっくりと微笑む。
「ここに来れば、いつでも見られますよ。」

そう言ってカップを拭く手は、どこか寂しげだった。
陽翔はその日、名前も聞かずにカフェを後にした。
けれど、あのミルクティーの温かさと、女性の微笑みがなぜかここに残り、次の日もその次の日も自然と足がそのカフェに向かっていった

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